担任の先生より OT・PT・ST

551)特別支援学校 指導目標を設定するときの、キーポイント

特別支援学校では、個別の指導計画なるものを作成しています。

先日も述べましたが、目標、手だて、評価など、書く負担を減らすためということで文字数が短いです。

これが、次年度以降への引継ぎの書類となるとき、ネックになるのが「具体的に何なのか分からん」です。

【計画の例】
教科:保健体育
指導内容:①水泳指導、②跳び箱、③マット運動
指導目標:①リラックスして水に浮くことができる。水に浮きながらボールをとることができる。
     ②手に荷重をかけて、跳び箱の上に座ることができる。
     ③マットの端まで連続して横転することができる。

手だて:①浮き具を使って浮く感覚が得られるようにする。
    ②床の上に手をつき、段階付けをしながら体重がかかる経験を積む。
    ③一回まわるごとに、視点と姿勢を整える。

思いつくまま書いたので、これはあくまで雰囲気として捉えて頂ければ幸いです(汗)。

目標を設定するにあたり、その子はどんな子で、どんな実態なのかがベースにないと、それが妥当かどうかは分かりません。書き方もやや曖昧で、どの子にも適用されそうな内容です。しかし、この目標は授業を行う前に設定するものであって、何回かやって立案する、医療的リハの目標設定とはスタ-トラインが違うのです。評価や検証がない状態で作成されるので、途中で変更されることがあります。

【何を目標にするか】
学校の生活の中で継続的にかかわることで、「時間と頻度を味方につける」のをフル活用します。また、医療的リハビリテーションで患者さんを評価する「科学する目と医学的知識」を持ち出しています。

①学校では、集団生活をすることが求められるので、一緒に学校生活を送りながら、誰でもかかわることができる学校生活の流れをつくります。その段階では具体的な目標などは設定しません。先にルーティンを作ってしまうと、それを遂行するために、多くの配慮と根回しが必要になり、もっと優先順位が高い物を導入しにくくなるからです。

②ある程度、登校から下校まで、無難にできる流れができてきたら、現状を把握します。当呼応から下校まで、それぞれの場面でどうしているか、何ができているか、どんな介助をしているか、頭の中で列挙していきます。慣れないうちや、情報の整理ができていないときは紙に書いていきます。書いているうちに、「ここ、介助が多くて大変だなぁ。何とかならん?」とか、「この姿勢のパターンが多い。他のこともできないか?」とか、「何だか手をかけ過ぎている気がする。本当にこれだけの支援が必要なのか?」、「児童生徒のもっている力は何だろう?」など、いろいろな疑問がでてきます。

③このへんで、具体的な指導目標と、手だてを作る局面かなと思います。よく、「実態を把握して」と言いますが、実際問題、すべての情報を把握して、整理して、安全かつ効果的な指導の形をつくるのは不可能です。「やりながら考える・分かる」、「やってから考える・分かる」ものだからです。

【精選】
例えば、バスから降りるために、手をつないでタラップまで移動し、言葉をかけつつ介助して一段ずつ降りていたとします。いつ降り始めるかは、教員の言葉かけとベルトを外して手をつないでいたとします。自分で降り始めの判断がつかないか?なんで手をつながなければならないか?と疑問に思いました。

降り始めは、主体的に動けると勝手にベルトを外し、立ち上がってもよいということになるので、容認できません。なぜなら、注意の転動が多く、立位・歩行が不安定で手すりの使用が十分でない。また、物事を予見して行動することが十分でないために転落や接触事故のリスクがあるからです。

認知面の課題があるので、教員の何らかの支援のもと、動き始める形がよいと考えました。手つなぎ歩行で降りることができるということは、安定性と導線の確保ができれば、環境をうまく使って自分1人でできるかもと仮説をたてました。

【はじめの指導】
自分で、自分の体の不安定性をカバーすることを理解し、運用できることが大事です。しかし、視覚認知や失調っぽいところは機能面の問題なので、指導して治すことは難しいだろうと考えました。そこで、併置や階段のぼりで手すりを使いながら移動すること、歩行の不安定さを軽減するためかかとにも荷重しながら歩くよう介助歩行を繰り返し行いました(外見は過保護に見える)。また、もともと持っている機能面・能力面を考慮すると、介助量やポイントが多すぎる気がしていて、この児童生徒も介助してもらうことで方向づけ、周囲の環境を確認する、立ってからどうするか企画する(流れをつくる)ことなどを放棄していると思いました。つまり、「甘えないで、自分でやってみな的な態度」は欠かせないと思いました。

座席から立つ合図は、「シートベルトを外す、跳ね上げ式のアームレストを下ろす」にしました。ベルトを放して解き放たれ、立ち上がるときに頼りになる第一歩としてのアームレストの出現によって立ち上がる手がかりができたのです。

立ち上がってからは前進するたびに、どこの手すりの、どの部分をつかむか、手をとり指をさして、日々繰り返し指導しました。手をつなぎたがりましたが、その手すりを使えば、手つなぎなんぞ要らん!の態度で距離をとりながら指導しました。

これに、手すりを使う指導と、安定を目的とした歩行練習をミックスして、現在はスタートの合図で立ち上がり、自分でタラップを降りてくることができるようになりました。

【結局、何を選ぶか】
まず、現在の状況はなぜ起こっているか、時間をかけて探求します。ある程度原因が分かったら、それを身体機能面、活動能力面、心理面、認知面などにざっくりと分類します。そのなかから、目標(課題)を抽出するのですが、一番てっとり早いのは、「この身体機能をもっているのに、ここができないのはおかしくない?」と考えて練習する、活動能力面に働きかける指導が最もてっとりばやい成果を出す方法だと感じています。