担任の先生より OT・PT・ST

587)特別支援学校 労働者としての意識改革、医療から学校教育へ

医療職から公立学校教員という立場になり、どうやって教員の仕事ができる自分を作ってきたかなと思い返しています。

大枠でとらえると、私の教員への職業観は「諦め」、「環境の把握」、「引き出しを増やす」、「根拠」がからみあいながら構築されたのではと思います。何をもって職業観ができるかは、先生方それぞれの個性や価値観、経験(過去と現在)によって違ってくると思うのですが、医療畑から学校にきた人は、大なり小なり同じようなことを感じ、同じような悩みをもつのかなと思います。

【諦め】
ある職種から他の職種に転職したとき「物の配置が違う」、「常識や価値観が違う」、などは誰でも感じることだと思います。物の配置は、職種だけでなく職場が変わるのだから当たり前なのですが、それは物事のすすめ方や管理体制が違うことにつながっています。その物品の管理は生活指導部と思ったけれど、この学校では保健部なの?などはよくあることです。管理が違うということは、予算や補充、修繕等の責任の所在も違うということです。物の置き場所を知ることは、仕事の枠組みを知ることにつながります。

常識や価値観が違うことは、それまでの仕事で培ってきたルールなどを捨てる、または更新することになります。感染対策やリスク管理、こんな子どもにはこのように支援するのが基本といった価値、などです。学校は公衆衛生や医療知識・理解について十分でないところがあり、よく「こうあるべき」にひきずられて大事なものをすっとばしてしまうことがあります。教員になった当初は、毎日「おかしい」、「なんでだ」、「自分にもこれをしろと?」などと考え、踏みたくない踏み絵を踏まされているような気持ちになることが、よくありました。

【環境の把握】
学校に入るうえで把握しておきたいものは、組織図と意思決定です。組織図を知ることは指示が上から順に下りてくるトップダウンと、現場の教員から小集団を経て検討事案があがっていくボトムアップを知ることにつながります。専門家であったときは部署の合意のうえで、対象者のために行動することが尊重されますが、学校ではいくら良い提案であっても、順番を守らない、自分勝手、現場を混乱させるとやり玉にあげられるので注意です。

また、どの学部が、校務分掌が、それぞれどんな集団を形成し、何をしているのかおおまかに理解していると、組織的な対応や判断を求められたときに効率的に、要点をおさえて処理できるので便利です。

【引き出し】
リハビリテーション室で仕事をしていると、室内と病棟内でのリハが中心で、与えられた環境のなかで治療が行われることになると思います。それが、学校では教室移動があり、校外学習や修学旅行あり、教科ごとの違いがあり、一緒に指導する教職員の面々の違いがあり、集団や個別の指導がありと、多様な学びの環境に遭遇することになります。この場面では、こんなふうに授業を展開した、このような子どもが教室にいるときはこのように過ごしていた、トラブルが起きた時はどのように対応したか、などの対応方法をたくさん目にすることで、自分の引き出しを増やすことができます。それを蓄積すれば、子どもを伸ばす指導はさておき、その場をうまく乗り切る一手をうつことができます。この対応力は他の職種ではなかなか身につかないと思うのです。

【根拠】
方法論に依存しすぎると、パターンやテクニック中心になる割合がふえるので、指導目標にターゲットを絞った指導が薄くなりがちです。何事も経験させることが大事ですが、子どもの能力を高める繰り返し・積み重ねの指導は根拠が必要です。根拠となるものは子どもと長く付き合うことで見えてくるものと、その一瞬をとらえて意味づけすることで明らかになる知識・技能で明らかになるものの2つに分かれると思います。医療職が得意なのは後者です。

学校生活を一緒に過ごしながら、場面によって医療職の専門性をひっぱり出してきて短期勝負することで、強い指導の根拠が確認できます。是非、医療職の得意技を学校でうまく活用して頂けたらと思います。